(物語の終わり、静香は一人で歩きだす。自分と自分の夢を大切にするために。

昭夫のケアの精神と、静香の自己ケアの芽生え。

最終回ではそんな生のかたちに感動の根拠を探りたい)

Ⅸー1、ケアする人としての昭夫

 ここまでずっと静香のことを語ってきたが、ここで昭夫についても触れておきたい。

 彼の振舞にはケアの精神が見られると思うから。

 昭夫の静香への思いは一途、一途すぎて、突っ走りがちともいえる。

 二度目の出会いで、自分から名を名乗って名前を言わせたり、アパートまでついていったり。

 今だったら、ストーカーと言われてしまうかもしれない。

 ただ、静香が全く嫌がっているというわけでないこともまた確か、例えばついてきた昭夫に、二階の部屋から、おじいさまを殺してしまった、と叫んで拍手をもらったりしている。

 それがラスト、スカートをつまんでのカーテンコールと呼応することはすでに述べた。

 一夜限りにしても、摩子役に落ちた夜、飲んで、二人は結ばれる。

 誘ったのは静香の方だ。そうしたかったから、という悪びれた言葉にもめげず、昭夫は諦めない。

 強引さはありつつ、芯のところで静香を大事にしている、大切に思っている、それが伝わるシーンもある。

 銭湯脇のコインランドリーで偶然会い、洗濯が終わるのを待つ間の会話。

 結局私寝てもらったのよね、五代さんの時も、あなたの時も。

 そう言う静香に昭夫はすかさず言う。

 あれは俺が寝てもらったんだよ。

 そして一人頷く、強く。

 ぶきっちょできわどい会話だが、静香を大事に思う昭夫の思いが伝わってくる。

 だからこそ、堂原と関係を持っていて彼が静香の上で死んだというスキャンダルがテレビで流れた後、昭夫の怒りは収まらない。

 アパートの階段で待ち、気づいて逃げる静香を公園まで追って、ごめんなさいという静香に迫る。

 言い訳しろよ、嘘でも何でもいいからさ。

 身代わりの静香に返す言葉はない。

 嘘でも何でもいいから、というその昭夫の言葉に、静香への深い思いが溢れている。

 自分の気持ちを収めたいということはもちろんあるだろう。

 が、それとともに、幻滅させないでくれと言うような。

 身勝手な思いかもしれない。

 が、大切におもっている、リスペクトしてる、何か理由なしにそんなことをする人じゃないだろ、そうした思いが言わせた言葉ともとれる。

 殴った拍子に飛んだサングラスを腹に突きつけ(この時「顔ぶたないで、私女優なんだから」。身代わりの代償とはいえ、それに自分をかけた静香の印象的なセリフが飛び出す)、足早に去っていく昭夫。

 彼に向かって叫ばれた静香の言葉「見に来てねぇ、私のお芝居、見に来てねぇ」に、昭夫は葛藤したことだろう。行くか、行かないか。

 結局初日、ラスト近く劇場に入り、静香のカーテンコールに拍手を送る昭夫。もちろんこの時は昭夫は身代わりの事実を知らない。静香は堂原を愛していたと思っている。しかし、その一途さに、拍手を送る。心から。

 ここにも、昭夫の、静香の選択を尊重する愛の形が現れている。

 そして、ラスト、かおりの登場ですべてが明らかになった時、昭夫は身を挺してそのナイフから静香を守り、刺され、花束を渡し、そして言う。

 おあいこだね、君も身代わりだったんだろ、好きなもののためにさ、だから、今度は俺がさ。

 すべてを理解した昭夫の、真実が明らかになった時点での、心からの静香への愛とリスペクトが溢れた行動と言葉。

 ぶきっちょで強引だが、その根底には、確かにケアの精神が脈打っている。

 だからこそ、落ちた花束を拾った静香は、これまでの昭夫の自分への思いをすべて受け止める。

 すがすがしく高貴でさえあるものに打たれて、正気に戻った、いや、愛と真実を見た、そんな眼になって、おそらく自らの中にも昭夫への愛を感じて、救急車に運ばれる昭夫を見送るのだ。

 (昭夫のケアの精神が、静香をどう支えたのか。そして、静香の選んだ別れの意味とは。ここから先は有料となりますが、静香の旅の終わりと始まりを、見届けてください)

 (今回でこの文章は終わりです。長い間付き合ってくださりありがとうございました。)